新型コロナウイルスの蔓延により経営状況の厳しい飲食店が増える中で、注目されているのが「ゴーストレストラン」です。
数年前までは存在すらなかったこの業態が、なぜ急に脚光を浴びるようになったのでしょうか。その理由やゴーストレストランのメリット・デメリットなどを解説してまいります。
ゴーストレストランの概要
ゴーストレストランとは、客席のある店舗を持たず、デリバリー専門で料理を提供する飲食店のことです。2014年頃にニューヨークで始まったとされ、日本では2017年に誕生したといわれています。通常の飲食店と違うのは、お客様に直接対応しないところであり、この点ではテイクアウト専門店とも異なっています。
デリバリー専門店なら以前からピザ店や寿司店などがあったと思われるかもしれません。しかし、これらは自前の配達員を雇用し、自社でチラシなどを配って宣伝も行っていました。ゴーストレストランは、配達も宣伝も自ら行う必要がないので、この点で以前のデリバリー専門店とも区別できます。
デリバリー用の料理を作ることだけに特化した飲食店であり、調理担当者だけで営業でき、接するのはデリバリー代行業者の配達員だけという、かなり特殊な業態がゴーストレストランです。
なぜ今、ゴーストレストランは注目されているのか?
なんといっても2020年の初頭から世界中で感染者が増加し始めた新型コロナウイルスの影響が大きいでしょう。
国内では、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が発出されて飲食店の営業が制限される中で、消費者の意識も変わり外食の需要が減りました。一方で、オフィスワーカーを始めとする人々にリモートワークが普及したことも加わり、家庭で飲食店の味を楽しみたいという機運が高まり、デリバリーやテイクアウトへの需要が増えていったのです。
これにより成長していったのが、「Uber Eats」や「出前館」といったデリバリー代行サービス。サービスエリアの拡張を行う業者や新規に参入する業者が増えました。その結果、消費者の利便性が高まりサービス利用者も増加していきます。
デリバリーに対する消費者の需要があり、そこに配達する手段であるデリバリー代行サービスの環境も整いました。しかも、コロナ禍の終息がまだ先になるであろうという状況も重なっています。このような流れで、ゴーストレストランが新たな飲食店の形として多くの関係者から注目を集めています。
ゴーストレストランの営業上のメリット
デリバリーに対する消費者のニーズが高まり、商品を提供する環境も整った今、飲食店関係者がゴーストレストランに関心を寄せているのはご理解いただけたでしょう。
しかしこれだけでは、通常の飲食店として営業しながらデリバリーもやればいいのではないかと感じます。それなのに、あえてゴーストレストランにすることには何か理由があるはずです。この理由について見ていきましょう。
開業コストを抑えられる
通常の飲食店を開業する場合には、まず保証金や礼金などで家賃の半年分とも1年分ともいわれる金額が必要です。そこに、内装費や外装費、設備・備品費などが加わり、少なくとも数百万円、多ければ一千万円以上の費用がかかります。
ゴーストレストランの場合、キッチンスペースだけあればよく、内装なども必要最小限で済むため、初期投資を低く抑えられるのが魅力です。特に、シェアキッチンや営業時間外の飲食店の厨房を借りるなどすれば、数十万円程度で営業を始められます。
毎月のコストが抑えられる
ゴーストレストランであれば、客席が必要ありません。そうなれば、店舗を借りる際も狭い物件で十分でしょう。また、接客が不要になりますので、そのためのスタッフも不要です。
つまり、通常の店舗であれば毎月かなりの金額となる、家賃や人件費などの様々な経費が削減できます。
方向修正をしやすい
通常の飲食店の場合一度開業してしまうと、提供するものを大きく変えることは難しいものです。たとえば、和食を提供していたお店が洋食店に転換する際には内装や外装まで含めて変更しなければ、不自然な雰囲気になってしまいます。この場合は、費用も時間もたくさん必要です。
しかし、ゴーストレストランであれば、サイトやアプリで表示されるメニューを書き換える程度で済みますので、費用も時間もほとんどかかりません。和食を提供していたが、需要がないので洋食に変更するといったことも比較的容易です。
売上が天候に左右されにくい
店舗を構えている飲食店の場合、売上が天候に左右されることは珍しくないでしょう。大雨の日にはほとんどお客様が来ないというお店もあるくらいです。
もちろんこれは、お客様が外出したくなくなるからなのですが、ゴーストレストランの場合には雨だからといって注文が減ることはないでしょう。むしろ、外出したくない人からの注文で売上が上がることすら考えられます。
売上が席数に制限されない
実店舗では、満席になってしまえばそれ以上お客様を入れることができず、売上の伸びが止まってしまいます。
しかし、ゴーストレストランであれば、客席数という制限要因がありませんので、調理可能な数まで受注して売上を伸ばすことができます。
ゴーストレストランの営業上のデメリット
メリットの多いゴーストレストランではありますが、通常の飲食店と比べた場合のデメリットもあります。どのようなデメリットなのか確認しておきましょう。
店舗型の強みを活かせない
通常の飲食店であれば、お店という実体があり、そこにお客様がいらっしゃることで得られるメリットがあります。店舗営業をしないゴーストレストランでは、そこがデメリットとなります。
人同士のつながりがない
通常の飲食店であれば、 気に入ってくれたお客様が友人などに紹介してくれてお客様が増えることがありますが、ゴーストレストランの場合にはあまり期待できません。これまでのお店の場合、従業員の人柄を気に入って通ってくれるお客様もいらっしゃいますが、デリバリーではそれも考えられないでしょう。
さらに、店舗では飲食したお客様からダイレクトに反応を得られ商品開発などにつなげられますが、直接接することのないゴーストレストランでは、それもできません。もちろん、お客様の連絡先を入手して、それを利用して営業をかけることも難しいでしょう。
店の実体がない
お店の雰囲気を気に入ってまた来てくれるお客様がいるものですが、ゴーストレストランの場合には、このような理由でリピートにつながることはありません。もちろん、出来立ての料理を食べてもらうこともできません。実店舗に比べると、お客様に喜んでもらう手段が少なくなってしまいます。
他にも、実店舗であれば、通りを歩く人に看板などで店の存在を知らせることができますが、ゴーストレストランではこのような宣伝効果も難しいでしょう。
開業場所の選定が難しい
注目を集めているとはいえ、まだまだ新しい業態のゴーストレストラン。ふさわしい店舗を見つけるのが難しいようです。大都市圏では増えつつあるとはいえ、他の地域ではキッチンスペースだけの物件は限られています。
また、仮にゴーストレストランにふさわしい物件は見つけられたとしても、そこで営業がうまくいくかは別の問題です。近隣にデリバリーのニーズがなければなりませんし、デリバリー代行サービス業者も必要なので、これらの条件がそろっている場所でなければなりません。
一品ごとのコストが上がる
ゴーストレストランでは、通常の飲食店よりも家賃や人件費などのコストが削減できるとお伝えしましたが、逆に新たなコストが発生します。主なものが下記の2つです。
容器代
配達手数料
容器代
基本的に一品ごとに容器が必要となり、商品によって使う容器の価格も変わります。商品原価と考えて、商品価格の決定時に参入し忘れないように気をつけましょう。
配達手数料
デリバリー代行サービスに支払う配達手数料も別途必要です。業者によって異なりますが、決して低い金額ではありません。商品価格を決める際は容器代とともに忘れないようにしてください。
参入のハードルが低く、これからの伸びも期待されるゴーストレストラン。メリットは大きいものの、メリットばかりではありません。デリバリー代行サービス業者に依存せざるを得ないところも多く、この点も経営上の制約となってしまいます。
これから参入を検討するのであれば、メリット・デメリットの両面をしっかりと調査した上で決定するのがよいでしょう。