食中毒といえば気温と湿度が高くなる梅雨から夏場にかけて多くなると思いがちですが、食中毒は寒い冬でも発生しています。というのも、冬場にはノロウイルスが流行するからです。
例年、年間の食中毒患者数の約半数がノロウイルスによるものと見られますが、そのうちの7割ほどが11月~2月の冬の時期に発生しています。最近はコロナウイルス感染症の蔓延による営業の自粛や消毒の徹底を理由に減少していますが、それまでは発生源として多くの割合を占めていたのが飲食店でした。
この記事では、ノロウイルスによる食中毒からお客様や従業員を守り、店の営業に障害を与えないために飲食店がやるべき予防策について説明してまいります。
※食中毒とは「食中毒を起こす原因がついた食物を食べることで症状が出る病気」を指しますが、ここでは便宜上食物を介さないものも食中毒として扱わせていただきます。
ノロウイルスの特徴を知る!
ノロウイルスは手や指、食品などを介して口から少量でも入ると、腸の中で増殖し、腹痛や嘔吐、下痢、発熱などの食中毒症状を起こします。
健康な人の場合はほとんど重症化せず1~2日で回復し後遺症もありませんが、子供や高齢者、持病がある人などが感染すると、症状が重くなることがありますので注意が必要です。
このノロウイルスには、以下のような特徴があります。
冬場に活発化する
食中毒の原因としてよく知られるサルモネラ菌や大腸菌などの細菌は、高温多湿を好んで増殖するため、これらを原因とする「細菌性食中毒」の発生は夏場が多くなります。
それに対し、ノロウイルスなどを原因とする「ウイルス性食中毒」は冬場に多く起こります。
その理由は次の通りです。
細菌と違い、ウイルスは低温で乾燥した場所でも生息できるから
低温・乾燥を好むウイルスはその環境下で感染力が高まり、さらに生存時間も長くなるから
低湿度の環境に加え、冬は水分をあまり摂らないため喉や気管支が乾燥し、ウイルスが付着しやすくなるから
低湿度の状況下では、咳やくしゃみによる飛沫はすぐに乾燥し小さくなるため、ウイルスが長く空中に飛散してしまうから
大規模感染になりやすい
ノロウイルスによる食中毒はしばしば集団感染が起き、1件当たりの患者数が多くなる傾向にあります。
その理由について説明します。
ウイルス自体の感染力が強い
10個程度のごくわずかなウイルス量でも感染してしまうほどの感染力を持っています。
さらに人の腸内で一気に増えるため、感染者の嘔吐物や糞便を介して大量に撒き散らされて、結果として多くの人が感染することとなります。
ノロウイルスには多くの遺伝子型があり、変異しやすいのも原因の一つです。
そのため一度感染した人でも、異なる遺伝子のノロウイルスに繰り返し感染してしまいます。
感染経路が多い
「細菌性食中毒」の場合、通常は原因菌が食物で増殖しそれを食べることで起きます。しかしノロウイルスの場合は、食物で増殖する時間が必要ありません。
そのため感染者やその周囲の人、汚染した食品などがウイルスを媒介して瞬時に食品を感染源に変えてしまうだけでなく、食品を口にする以外の経路での感染も多くなります。
このように、感染経路が多ければそれだけ感染する人が多くなるということです。
またノロウイルスに感染していても症状が出ない人もいます。症状がなくても排泄物にはウイルスを含んでいるため、無自覚のまま感染源となりウイルスを広めてしまうケースがあるのも感染経路を増やす要因となっています。
飲食店におけるノロウイルスの感染経路とは?
飲食店でノロウイルスによる食中毒が発生する場合、どのような感染経路で起こるのでしょうか。主なルートを3つお伝えします。
ノロウイルスに汚染された食べ物から感染
元からノロウイルスに汚染されていることがある食品の代表が牡蠣などの二枚貝などです。
海水は人が排出したノロウイルスによって汚染されていることがあります。この場合、二枚貝は汚染された海水中からノロウイルスを取り込み体内で濃縮・蓄積します。それを生または加熱が不十分な状態で食べることが感染ルートの一つとなっています。
汚染された食材を扱った調理器具を介して感染
ノロウイルスに汚染された食材を扱ったまな板やボール、包丁などの調理器具にはウイルスが付着することが多いです。調理の際にこれらを十分な洗浄・消毒をせず使い回すことで他の食材にウイルスが付着します。するとこの食材も感染源となり、感染が広がっていきます。
感染した食品取扱者から感染
ノロウイルスに感染した食品取扱者によって汚染された食品を食べることでも感染します。他にも会話や咳・くしゃみをするときに出る、感染した食品取扱者の飛沫等が口に入って直接感染することや、ドアノブや水道の蛇口・トイレの便座などの共同で使用する部分に感染者が触れてウイルスが付着し、そこを触った者の手を介して感染する場合もあります。
今すぐできる!ノロウイルス食中毒の予防策
それでは具体的に、飲食店でできるノロウイルス食中毒の予防策を見ていきましょう。
調理する人の健康管理
食品取扱者は、日頃から自分自身の健康状態をよく観察し、腹痛や嘔吐、下痢、発熱などの症状がある場合には、食品を直接取り扱う作業をしないようにしましょう。
また自覚症状がなくなってもウイルスの排出が続くことがあるので、症状が改善しても、しばらくは食品を取り扱う作業は避けるべきです。
家族や身近な人に症状がある場合、自分も感染している可能性があるため、同様の注意をしなくてはいけません。
作業前などの手洗い
除菌効果のある石鹸で手洗いをしなければならないのですが、その環境を整えることも重要です。というのも、温水が出ないためにしっかりと時間をかけて手洗いできずウイルスが手に残存し、感染した例もあるからです。
洗うタイミングは「トイレに行った後」「調理施設に入る前」「料理を盛り付ける前」「次の調理作業に入る前」などで、手を洗う前には爪を短く切り、指輪や時計は外しておきましょう。
洗う順序・箇所は、流水でよく手を濡らして石鹸をつけた後、
①手のひら
②手の甲
③指先と爪の間
④指の間
⑤親指の周り
⑥手首
これらを隅々まで念入りにこすり洗いをします。
十分に洗い流した後は清潔なタオルやペーパータオルで拭き、乾燥させます。
タオルはウイルスが残存しやすいため、共用するのは避けましょう。
調理器具などの消毒
まな板、包丁、食器、ふきんなどは、使用後すぐに洗剤で十分に洗浄し、さらに熱湯(85℃以上)で1分以上の加熱消毒をしましょう。
食品の中でも二枚貝の取り扱いには特に注意し、専用の調理器具を使い、使用するごとによく洗浄、消毒するように心がけてください。
共同使用箇所の消毒
ノロウイルス食中毒の恐ろしいところは、ウイルスが付着している場所に触った手を介してでも感染してしまうところです。トイレの便座やふたはもちろん、ドアノブや水道の蛇口など、手指の触れる場所の消毒は定期的かつ徹底的に行ないましょう。
冬に流行するノロウイルスは、感染力が強く、少しのウイルスでも多くの人が感染してしまいます。飲食店では、食材や調理器具の取り扱いに注意を払うとともに、徹底した手洗いを含めて接触感染にも警戒が必要です。
お客様や従業員、お店を守るため、自己の健康管理をはじめとする感染対策をしっかりと心がけていきましょう。
【参考】
食中毒の原因(細菌以外) – 厚生労働省
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/kyoka/takeout_fp.html
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