近年、様々なところで耳にする機会が増えた言葉に「KPI」があるのではないでしょうか。KPIとは「Key Performance Indicator」の略で、日本語では「重要業績評価指標」と呼ばれます。飲食店でも業績改善のためにこのKPIを用いるところが増加していますが、まだ完全に浸透しきっているとはいえないでしょう。
そこで、今回はこのKPIをテーマにお話してまいります。まず「KPIとは?」などの前提を含め、飲食店でKPIを設定するメリットや飲食店での効果的なKPIの設定方法をお伝えしていきます。
業績向上の一助となるかもしれませんので、ぜひ最後までお読みください。
KPIとは
KPIを指す「重要業績評価指標」とは、噛み砕いていうと「目標を達成するために必要な数値」のことです。
一般的に目標は「今月の売上〇〇万円」や「2023年までに△△店舗出店」などのようにシンプルでイメージしやすいものです。ときには、「顧客満足度を高める」という具合に抽象的な目標が掲げられることもあるでしょう。
しかしこれらの目標は、従業員で共有しやすいというメリットがあるのですが、具体的に何をすればよいのかはわかりにくいものです。例えば、月の売上目標が1,000万円であれば、1万円の商品を1,000個売るのと、5千円の商品を2,000個売るのではやるべきことが変わってきます。そこまではカバーしきれていません。
そこで、何通りもある目標達成の道のりを1通りに絞り込み、数値化したのがこのKPIです。具体的な数値を設定することで、従業員が何をすればよいのかがわかりやすくなります。
KPIを設定するためには最終目標を達成するために必要な要素を考え分解することが必要です。売上目標の例であれば「売上=客数×客単価」なので、客数と客単価に分解できるでしょう。さらに細かく設定するのであれば「客数=新規客数+リピーター客数」「客単価=フード客単価+ドリンク客単価」と分けていくことも可能です。
ただし細かく分けるほど、達成率を算出する負担が大きくなりますし、正確な数字を把握しづらくなってきます。ですから、お店の実情にあったKPIとすることが重要です。
飲食店でKPIを設定するメリット
では、飲食店でKPIを設定することにどのようなメリットがあるのでしょうか。これまでのような営業目標を立てるだけではいけないのでしょうか。
KPIを設定するメリットは、目標達成をしやすくなるという点にあります。すでに述べましたが、漠然とした目標は達成するための具体的な数字がないため、行動に繋げにくいというデメリットがあります。それでも順調に目標に近づいていれば問題はないのですが、いざ調子が悪くなったときには「どこが悪いのか」「どうすればいいのか」を見つけるのが困難です。そのため、改善案が的を射たものとなりにくい傾向があります。
しかし目標達成のための要素を分解してそれぞれをKPIとして数値化していれば、目標未達となってもどこが悪いのかを見つけやすくなります。成績が悪いところに注力し対策をしていくことで、成果が上がり目標をクリアしやすくなるのです。
また、従業員のモチベーションに繋がりやすいという点もあるでしょう。数値化されたKPIがあることで、ゴールにどの程度近づいていて、あとどれだけやれば目標達成できるのかが可視化されます。努力に対する成果を日々感じられることで、従業員のやる気も湧きやすくなります。
飲食店で効果的なKPI設定の仕方とは
飲食店でもKPIを設定することが、これまでのようにざっくりとした目標だけで営業をするよりも、業績に良い効果がありそうだというのがおわかりいただけたかと思います。
ここでは、このKPIをどのように利用していけばよいのかを解説してまいります。
代表的KPIを定める
代表的KPIというと少し難しく感じるかもしれませんが、実はすべて馴染みのあるものです。これまでも、営業成績を語るときに使っていた指標がそのままKPIとなります。
ただしこれまでは、これらの指標を「営業した結果」ととらえ、「次はもっと上げよう」とか「来月は下がるようにしよう」という具合に緩く運用されていたと思います。
それをこれからは、KPIという「目標達成のためにクリアしなければならない条件」ととらえていただき、常に設定した数値を満たせているかを意識するとよいでしょう。
それでは、以下に代表的KPIを4つ挙げていきます。
客数
飲食店のみならず、多くの事業で売上は代表的な目標です。繰り返しになりますが、飲食業では売上を作る要素を分解すると「売上=客数×客単価」となります。ですから、客数は目標達成のためには欠かせないKPIとなります。
ただし先述したように、これもさらに細分化が可能です。新規とリピーター以外にも、「時間別客数」や「年代別客数」、「性別客数」など様々な切り口があります。オペレーション上可能であり、有意なものであれば、より細かく設定してみてください。
客単価
客単価は、売上を構成するもう一つの要素です。一般的に、客数を増やすよりも客単価を上げるほうが容易とされていますので、業績改善を目指す場合には優先されるKPIといえるでしょう。
とはいえ、飲食店での客単価は様々な要素で構成されています。「ドリンク」や「前菜」「メイン」「デザート」などにカテゴリー分けされ、客単価の上げ方はいろいろです。時間帯や客層によっても構成率は変わるでしょう。これらの条件に合わせてKPIを設定してください。
原価率
売上が目標として掲げられることが多いものの、実際にお店として得たいものは利益のはずです。たとえ売り上げが多くとも、利益が残らないのでは営業する意味はないでしょう。
そこで改めて意識したいのが「利益=売上-費用」の式です。つまり、利益をより多く残そうとすれば、売上を上げつつ費用を少なく抑える必要があります。飲食店での費用の代表といえるのがこの原価率であり、KPIとして設定すべきものでしょう。
ただし、お店によって適正な原価率はすでにあって、安易にそれを下げることは質の低下につながり、客離れの原因ともなります。やみくもに下げようとするのではなく、質を保ったうえで、いかにロスをなくすか、より良い食材・仕入れ先を探すかという点で改善を目指してください。
人件費
原価率と並び費用の多くを占めるのが人件費です。とはいえ、社員だけで営業をしているお店などでは削減ができず、KPIとして設定できない場合があります。日にちや時間帯でアルバイトの人数を調整できる場合に、KPIとして設定するとよいでしょう。
しかし原価率同様、やみくもに人件費を下げようとするとサービスの質が低下して、顧客満足度に悪影響を及ぼします。デジタル化や機械化などを推進することで、人力の必要性を減らしていき効率化を進めていってください。
KPIを行動レベルに分解する
ただいま代表的なKPIを紹介しましたので、これで各KPIに数値をいれていただければ設定は一応完了します。
ただし、より目標達成を確実にするためには、もう少し意識していただきたいことがあります。それは、行動レベルに落とし込んだKPIを作ることです。
例えばKPIとして月の客数を1,000人に設定したとします。現在の客数が900人だとすると、あと100人増やさなければならないことになります。たしかに、目標としては具体的ではあるのですが、100人増やすために何をするのかは明確になっていません。
そこで必要なのが具体的なアクションの目標です。例えば、現在月1回のLINEによる販促を週1回に増やすとか、次回来店時に使えるクーポンを会計の際に渡すとかの行動をKPIに設定します。週1回の配信を確実にできたか、全てのお客様にクーポンを渡せたかといった、自分たちの行動の達成率を目標とします。
客数という目標は所詮お客様という他人の行動であり、お店側がコントロールはできません。しかし、自分たちの行動はコントロール可能です。目標が達成できなければ自分たちの行動を変えることで、結果も変化させられます。可能な限り、KPIは自分たちの行動で完結するように分解をしていきましょう。
それぞれのKPIの関係性を意識する
今回ご紹介したKPIは、どれかを上げようとすればどれかが下がりやすいという関係にあります。
例えば、客数を増やそうと思って価格を下げると客単価も下がる可能性が高くなります。また、人件費を下げるために従業員の数を減らすとお客様が注文しづらくなって客単価が下がるかもしれません。
そのため、いずれかのKPIを改善するための施策をする場合には、他のKPIにどのような影響があるかを事前に想定しておかなければ効果が上がらないばかりか、逆効果になることさえあるということです。
もちろん、アイデア次第ではすべてを好転させることも可能です。あくまでも相互に関係しあっていることを意識したうえで、KPI改善の手を打つようにしてください。
今回は、KPIとはどういうものか、飲食店がKPIの設定をすることでどのようなメリットがあるのかといったことをお話してまいりました。
飲食業界は、全業種の中ではどちらかというとアナログな世界であり、数値を見るよりもお客様を見て仕事をするべきだという考えが大きい職種だと思います。しかし、業績を上げてしっかりした結果を残していかなければ経営を続けていけません。そのためには、KPIという指標で日々の営業を評価することは理にかなっているといえるでしょう。
とはいえ、人を見ず数字だけを追うような営業ばかりをしていては、お店の魅力がなくなってしまうかもしれないのもまた現実です。お客様に喜ばれる店づくりをしながら、KPIの良い面を活かせるようにしてください。