時折、飲食店が原因となる食中毒事件が世間を騒がせます。そのたびに、食品をお客様に提供することの責任の重さを感じているのではないでしょうか。
衛生管理は、お客様に安全でおいしい食事を提供するために必要不可欠な要素です。しかし、それは簡単なことではありません。食品関連法規やHACCP(ハサップ)などの基準を守ることはもちろん、日々の清掃や消毒、温度管理や在庫管理など、さまざまなポイントを押さえる必要があります。もし衛生管理を怠れば、食中毒やクレームなど、重大なリスクに直面する可能性があるので気が抜けません。
この記事では、飲食店の衛生管理の重要性と実践方法についてご紹介します。まずは、衛生管理とは何か、食品関連法規やHACCPの基礎知識をおさらいします。次に紹介するのが、衛生管理をしっかりやるメリットとデメリットについてです。そして、衛生管理のポイントとして、人・場所・物・方法の4つの要素を詳しく説明した後、最後に衛生管理の実践方法をご紹介します。
衛生管理は、飲食店を安定して経営するのに欠かせないものです。ぜひこの記事を参考にして、お客様に安心して選ばれるお店であり続けてください。
衛生管理とは何か?食品関連法規とHACCPの基礎知識
衛生管理は、食品を安全に提供し、お客様に信頼されるお店を作るために不可欠です。また、厚生労働省が定める食品衛生法の改正により、HACCPに沿った衛生管理の実施が義務化されており、これは国際的な食品安全管理の手法です。
衛生管理とは
衛生管理は、食品の安全性を確保するために必要な活動です。
これには、以下の3つの要素が含まれます。
・食品の製造や加工、調理、保存、配送、提供の各工程で、微生物や異物の汚染を防ぐ
・食品を扱う人や場所、物、方法を清潔に保ち、衛生習慣を守る
・食品関連法規やHACCPなどの基準や指針に従い、衛生管理の内容や結果を文書で記録し、管理する
※HACCPについては、後述します
衛生管理は、原料生産者や流通業者を含む全ての食品事業者が実施する必要があります。特に飲食店は、消費者に直接食品を提供する最終段階であるため、衛生管理の重要性が高く、HACCPに沿った衛生管理の実施が義務付けられています。
参考:HACCPの考え方を取り入れた衛生管理|公益社団法人日本食品衛生協会
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/haccp/01_00019.html
食品関連法規とは
食品関連法規とは、食品の安全性や品質を保証するために定められた法律や規則のことです。飲食店の経営者は、これらの法規に遵守しなければなりません。違反すると、罰金や営業停止などの行政処分や、刑事罰や民事訴訟などの法的責任を負う可能性があります。
衛生管理に関係する食品関連法規には、以下のようなものがあります。
食品衛生法
食品の製造・加工・販売・輸入などに関する衛生基準や表示基準を定めた法律です。食中毒や健康被害を防ぐために、食品添加物や残留農薬などの使用量や検査方法などが規定されています。
食品表示法
消費者が食品を選択する際に必要な情報を表示することを義務付けた法律です。原材料名やアレルギー物質、賞味期限や保存方法などが対象です。
食品安全基本法
食品の安全確保に関する基本的な方針や責任分担を定めた法律です。国や地方公共団体、事業者、消費者などの役割や協力体制が明記されています。
これらの法規は、飲食店の衛生管理に直接的に影響するものです。しかし、それだけではありません。消費者庁や厚生労働省などの行政機関が発行する通知や指針、業界団体が策定するガイドラインなども参考にする必要があります。 また、地域や業種によっては、独自の基準やルールが設けられている場合もあります。 これらも遵守しなければなりません。
食品関連法規は、時代や社会情勢に応じて変化します。最新の情報を常に把握し、適切に対応することが重要です。衛生管理は、お客様に安心して選ばれるお店になるための必須条件です。法規を守ることは、お客様だけでなく、自分たちの安全と信頼も守ることにつながります。
参考:食品衛生法|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=78330000&dataType=0&pageNo=1
食品表示法の概要|消費者庁
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/pdf/130621_gaiyo.pdf
食品安全基本法|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=78aa4919&dataType=0&pageNo=1
HACCP(ハサップ)とは
HACCPとは、Hazard Analysis and Critical Control Pointの略で、食品の安全性を確保するためのシステムです。HACCPでは、食品の製造や加工、流通、提供の過程で発生しうる危害(微生物、化学物質、物理的異物など)を分析し、それらを予防または低減するための管理点(CCP)を特定し、監視や記録を行うことで、食品の安全性を継続的に管理します。
HACCPは、国際的に認められた食品衛生管理の基準であり、日本でも食品衛生法に基づいて推奨されています。HACCPを導入することで、以下のようなメリットが期待できます。
・食中毒や食品事故の発生リスクを低減することができる
・お客様に安心して食べていただくことができる
・衛生管理のレベルを高めることができる
・食品関連法規や規格に適合することができる
・経営効率や品質管理の向上につながる
HACCPは、飲食店における衛生管理の重要なツールです。しかし、HACCPを導入するには、十分な知識や経験が必要です。また、HACCPは一度作成したら終わりではなく、常に見直しや改善を行う必要があります。そのため、HACCPを実践するには、経営者や従業員の意識や責任感が不可欠です。
参考:HACCP(ハサップ)|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/haccp/index.html
衛生管理のメリットとデメリット
飲食店における衛生管理は、お客様に安心して選ばれるお店になるために欠かせない要素です。しかし、衛生管理にはメリットだけでなく、デメリットも存在します。
ここでは、衛生管理のメリットとデメリットをそれぞれ紹介し、衛生管理を行う際の注意点や対策をお伝えします。
メリット
飲食店における衛生管理を行うメリットは、大きく分けて以下の3つです。
・お客様に安心感と信頼感を与える
・食中毒や食品事故のリスクを低減する
・コスト削減や品質向上につながる
それぞれについて説明します。
お客様に安心感と信頼感を与える
飲食店の経営にとって非常に重要です。お客様は、衛生的で清潔なお店を選びたいと思っています。衛生管理を徹底することで、お客様に清潔感のある印象を与えることができます。また、衛生管理を行うことで、お客様に対して食品の安全性や品質に自信があることをアピールすることも可能です。これらは、お客様の満足度やリピート率を高める要因になります。
食中毒や食品事故のリスクを低減する
食中毒や食品事故は、お客様の健康や命に影響を及ぼすだけでなく、飲食店の信用や評判を失墜させる可能性があり、法的な責任や賠償問題に発展することもあるでしょう。衛生管理を行うことで、このような食品汚染や腐敗、微生物や異物の混入を防ぐことができ、食中毒や食品事故の発生を予防する効果が得られます。
コスト削減や品質向上につながる
衛生管理を行うことで、食材のロスや廃棄物の削減ができ、仕入れコストや廃棄処理費用の節約になります。また、食材の鮮度や風味を保つ意識が高まることで、料理の品質や味わいを向上させる効果も得られます。
デメリット
衛生管理には多くのメリットがある一方で、デメリットも存在します。主に以下の2点です。
・教育と研修に時間やコストがかかる
・規則や手順の遵守が負担になる
各項目については以下のとおりです。
教育と研修に時間やコストがかかる
衛生管理を行うには、従業員に対して適切な教育と研修を行う必要があります。しかし、これには時間とコストがかかりますし、従業員のモチベーションや理解度にも左右されます。また、教育や研修だけでは十分ではなく、定期的なフォローアップや評価も必要です。
規則や手順の遵守が負担になる
複雑で厳格な規則や手順を遵守することも必要です。これには、食品関連法規やHACCPの基準だけでなく、自社独自の基準やルールも含まれます。しかし、これらの規則や手順は、従業員にとって負担になることもありますし、場合によっては業務効率や柔軟性を低下させることもあります。
衛生管理のポイント
飲食店における衛生管理とは、食品の安全性と品質を確保するために必要な活動です。しかし、衛生管理を行うには、どのようなポイントに注意すべきでしょうか?
ポイントは、大きく分けて以下の4つです。
・人
・場所
・物
・方法
それぞれについて、具体的な内容や注意点などを解説していきます。
人
飲食店における衛生管理の最も重要な要素は、人です。人とは、食品を扱う従業員やお客様のことを指します。人によって、食品に細菌やウイルスが付着したり、汚染されたりする可能性があります。そのため、人に関する衛生管理は、食中毒や感染症の予防に直結します。
人に関する衛生管理のポイントは、以下の3つです。
・手洗いと手指消毒
・体調管理と健康診断
・衛生的な服装と身だしなみ
詳細は次のとおりです。
手洗いと手指消毒
食品を扱う前後やトイレの後などに必ず行うようにしましょう。手は細菌やウイルスの温床になりやすく、食品に触れることで汚染するリスクが高いです。手洗いは流水で泡立てて20秒以上行い、手指消毒はアルコール製剤を使用してください。
体調管理と健康診断
従業員が感染症や食中毒の原因となる病気にかかっていないかを確認するために重要です。体調管理は、出勤前に検温や自己申告を行い、発熱や嘔吐などの症状がある場合は休業するようにしましょう。健康診断は、年1回以上受けることが法律で定められています。特に、腸管出血性大腸菌やサルモネラなどの病原体検査を受けることが必要です。
衛生的な服装と身だしなみ
食品に髪やほこりなどが混入しないようにするために大切です。服装は清潔で白色または淡色のものを選び、エプロンや帽子などを着用しましょう。身だしなみは、髪を束ねてヘアネットをかぶり、爪を切ってマニキュアを落とし、アクセサリーや化粧品などを身につけないようにしましょう。
場所
食材の受け入れから調理、提供までの一連の流れにおける場所は、衛生管理の重要なポイントです。場所によっては食品に異物が混入したり、細菌が繁殖したりするリスクが高まるため、場所ごとに適切な衛生管理が必要です。
具体的には、以下のように行います。
・受け入れ場所では、食材の温度や品質をチェックし、汚染されていないか確認する
・保管場所では、食材の種類や賞味期限に応じて、冷蔵・冷凍・常温の適切な温度で保管する。また、生鮮食品と加工食品は分けて保管する
・調理場所では、生鮮食品と加工食品を別のまな板や包丁で扱う。また、調理器具や手はこまめに洗浄・消毒する
・提供場所では、料理や飲み物を適切な温度で提供する。また、提供後はすぐに皿やグラスを回収し、洗浄・消毒する。
場所に応じた衛生管理を徹底することで、お客様に安全でおいしい料理を提供できるようになります。
物
物とは、食材や調理器具、食器やカトラリーなど、食品に直接触れるものやそれを扱うものを指します。物には、細菌やウイルスなどの微生物が付着している可能性があるため、物の衛生管理は、食品の安全性を確保するために欠かせません。
物の衛生管理には、以下の3つのポイントがあります。
・選択
・保管
・洗浄
それぞれを解説します。
選択
食材や調理器具などを購入する際に、品質や安全性を考慮し選ぶことです。食材は、鮮度や原産地、賞味期限などを確認し、信頼できる業者から仕入れることが重要です。調理器具や食器などは、素材や形状、サイズなどによって、清潔に保ちやすさや使い勝手が異なります。例えば、木製のまな板はプラスチック製よりも細菌が残りやすいと言われています。また、凹凸の多いものや隅があるものは、洗浄しにくいという欠点があります。そのため、物を選ぶ際には、衛生に影響する様々な点を考える必要があります。
保管
食材や調理器具などを適切な環境で保管することです。食材は、冷蔵庫や冷凍庫などで温度管理を行い、それぞれに適した環境に収納することが基本となります。調理器具や食器などは、清潔な棚や引き出しに整頓して収納し、埃や虫などから守ることが必要です。また食材などは、先入れ先出し(FIFO)の原則に従って、古いものから使うように心がけましょう。
洗浄
食材や調理器具などの汚れや菌を洗って取り除くことです。食材は、水洗いや塩もみなどで表面の汚れを落とし、必要に応じて食品用消毒液などで殺菌することが望ましく、調理器具や食器などは、専用の洗剤を使い、スポンジやブラシなどでしっかりと洗浄し、乾燥させることが大切です。また、定期的に高温殺菌やアルコール消毒なども行ってください。物を洗浄する際には、使用前と使用後の両方で行うことが理想的です。
方法
衛生管理の方法とは、食品の調理や保存、廃棄などの過程で行うべき手順やルールのことを指します。これらの方法を明確にすることで、食品の安全性を高めるとともに、作業効率の向上やコスト削減にもつながります。
衛生管理の方法には、以下の3つのポイントがあります。
・HACCPの原則に沿って、危害分析と重要管理点(CCP)を設定する
・CCPに対して、監視方法や基準値、是正措置などを定める
・衛生管理の実施状況や結果を記録し、定期的に検証する
これらの方法を実践するためには、チェックリストや記録表などのツールを活用することが有効です。
参考:食品製造におけるHACCP入門のための手引書|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000098994.pdf
衛生管理の実践方法
衛生管理のポイントを押さえたら、次は実際にお店でどのように衛生管理を行うかを考えましょう。
ここでは、衛生管理の実践方法について、以下の4つのステップに分けて説明します。
ステップ1:衛生管理計画の作成
衛生管理計画とは、お店の衛生状態を把握し、食中毒や感染症などのリスクを分析し、それらを予防するための具体的な対策や手順をまとめた文書です。衛生管理計画を作成することで、お店の衛生管理が体系的で効果的になります。
衛生管理計画を作成する際には、以下の点に注意してください。
・お店の規模や特徴に合わせて、必要な内容や範囲を決める
・定期的に見直しや改善をする
・すべての従業員が理解しやすいように作成し、共有する
ステップ2:衛生管理教育の実施
衛生管理計画を実行するのは従業員です。ですから、従業員が衛生管理の重要性や基本知識、実践方法を理解し、意識して行動することが必要です。そのために、衛生管理教育を定期的に実施しましょう。
衛生管理教育を実施する際には、以下の点を心がけてください。
・新人教育だけでなく、定期的な研修やフォローアップも行う
・実践的で分かりやすい内容にする
・従業員の意見や質問にも答える
ステップ3:衛生管理チェックリストの活用
衛生管理計画や教育だけでは、お店の衛生状態を良好に保つことができません。日々の業務で、衛生管理が適切に行われているかを確認し、問題があれば改善することが必要です。そのためには、衛生管理チェックリストを活用しましょう。
衛生管理チェックリストとは、お店の衛生状態を点検するための項目や基準をまとめた表です。衛生管理チェックリストを活用することで、お店の衛生状態が客観的に評価できます。
衛生管理チェックリストを活用する際には、以下の点に注意しましょう。
・お店の規模や特徴に合わせて作成する
・定期的に見直しや改善を行う
・全ての従業員が参照できるように掲示する
ステップ4:衛生管理記録の保存
衛生管理チェックリストで点検した結果や、衛生管理に関するその他の情報を記録して保存することも重要です。衛生管理記録を保存することで、お店の衛生状態の変化や傾向を把握できます。
衛生管理記録に関しては、以下の点に気を付けましょう。
・正確かつ詳細に記入する
・一定期間保存する
・必要に応じて公開する
今回は、飲食店における衛生管理をテーマに、衛生管理の基礎知識、メリットとデメリット、ポイント、実践方法について解説しました。
衛生管理とは、食品の安全性と品質を確保するために行う一連の活動であり、食品関連法規やHACCPなどの国際的な基準に沿って行うことが求められています。
衛生管理のメリットは、お客様の信頼や満足度の向上、食中毒やクレームの防止、コスト削減などです。デメリットは、時間やコストがかかることや、従業員の負担などです。
また、人・場所・物・方法の4つのポイントに注意し、衛生管理を行う必要があります。実践方法は4つのステップに分かれていますので、これらを順にやるとよいでしょう。
衛生管理は、飲食店経営に欠かせない要素です。ぜひこの記事をお役立てください。