世界の人口増加による食料不足や、農林水産業による環境負荷などの問題を解決する手段として、近年注目を集めているのがフードテックです。
比較的新しい言葉であり、日々進歩をしている分野だけにまだ馴染みが薄いかもしれません。
本記事では「フードテックとは何か?」「なぜ注目されているのか?」「飲食業とフードテックとの関わりやこれからの未来」についてわかりやすく解説し、今注目のフードテック企業もご紹介します。
フードテックとは?飲食店の未来を拓くテクノロジー
フードテックとは、食を表すフード(food)と科学技術のテクノロジー(technology)を組み合わせた造語です。
AI(Artificial Intelligence)〈人工知能〉やIoT(Internet of Thing)〈モノのインターネット〉を駆使して食の可能性を広げる分野であり、これからますます注目され、市場も大きくなると期待されています。
農林水産業などの一次産業から生産を担う二次産業、飲食店などの三次産業にいたるまで広い領域で展開可能で、主なものは以下のとおりです。
農林水産業
例)AIによる管理や自動化
食品の開発
例)代替肉や昆虫食など新しい食材の開発
流通・配送
例)流通システムや配送などのITの活用
外食・中食
例)モバイルオーダーの活用
調理
例)テクノロジーを駆使した自動調理
一次産業分野では、食料の安定供給やSDGs(持続可能な開発目標)の実現への期待が持たれています。
同じく二次産業では、ロボットやIoT、代替肉などの開発が注目のジャンルです。
モバイルオーダーシステムの活用や、調理や配膳の自動化などによる人員削減は飲食店などの三次産業で進んでいくでしょう。
フードテックが注目される理由
それでは、なぜフードテックがここまで注目されているのでしょうか?
その理由を以下にまとめました。
食料需要増加に対する必要性
今後30年で世界人口は90億人を越すと予想されています。2050年の食料需要は2010年比で1.7倍まで増加すると見込まれており、安定的な食料供給が課題です。これを解決するには、フードテックの利用が不可欠とされています。
環境負荷軽減への切り札
SDGs達成のため、農林水産業の環境負荷を今以上に減らす必要があります。その原因となっている土壌・水質汚染や森林破壊の削減には、フードテックの活用が必要です。
新食材へのニーズ
慢性疾患の増加による医療費負担を減らすため、病気の予防が重視されています。それには、既存の動物肉よりヘルシーで安全な代替肉への置き換えが有効です。
また、宗教的な理由やヴィーガンなどの思想で特定の食物を口にしない人にとっても、代替肉は食のバラエティーを増やす助けとなるでしょう。
このような新食材の開発も、フードテックの力が発揮される分野です。
投資拡大による成長性
日本政府の強力な後押しがあり、フードテック分野への投資は急速に拡大しています。
国連サミットで2015年に採択されたSDGsは、持続可能でよりよい世界を目指すという国際的な目標です。日本でも取り組みが強化されていますので、フードテック分野の成長はまだまだ続くと見られています。
裾野拡大による新市場創出
AIやロボット、IoTなどの活用で、これまで食と無関係だった分野の企業も続々と参入してきています。
政府の出資も追い風となり、家電メーカーをはじめとする多くの企業にとってフードテックは魅力ある新市場です。
フードテックが切り開く未来とは?フードテックが解決する課題
現在、問題とされていることも今後フードテックにより解決される見込みがあります。
以下にフードテックによって解決できる問題や今後期待されることを紹介します。
食料供給の安定化
国連の報告によると、今後30年で世界の人口は約20億人増加します。当然、食料の需要も増えますが、現状では供給が追いつきません。農業や流通分野などでフードテックを活用することでこの問題を解決できるとされています。
フードロスの削減
世界では9人に1人が飢餓状態にあり、3人に1人が栄養不足にあるとされています。一方で、主に先進国ではフードロスの問題が深刻で、消費されずに廃棄されている食料は年間約13億トンです。
フードテックにより長期保存技術が確立すると、フードロスを減らし、不足する地域に食料を届けることが可能となります。
自然条件に影響されない食料生産
干ばつをはじめとする自然災害も食料不足の原因の一つです。
フードテックを活かした、工場での生産が普及すると、災害などに左右されずに安定して農作物を収穫できるようになります。
環境負荷の軽減
SDGsにより注目されている農林水産業の環境負荷の問題。特に畜産における家畜の排泄物による水質汚染や放牧による森林破壊、また農業における農薬による土壌汚染などが問題視されていますが、フードテックにより軽減できます。
環境負荷の少ない代替肉
牛や豚、鶏などの食用肉を生産する過程では、水質汚染や森林破壊、温暖化ガスの発生など様々な環境への負荷が指摘されています。
フードテックにより動物肉そっくりの味、香り、食感を再現した大豆ミートなどの代替肉は、畜産が原因の環境汚染の削減につながります。
工場で栽培される野菜
現代の農業には欠かせない農薬もまた、環境に大きな負荷をかける一因となっています。
しかしフードテックを活用し工場で野菜を作れば、害虫などの発生を抑えられるため、農薬による土壌汚染を防ぐことが可能です。
慢性疾患の予防
偏った食事などにより慢性疾患が増加しています。慢性疾患は食生活の改善により予防できるため、フードテックを使って作るヘルシーフードがその助けとなります。
ヘルシーな代替肉
偏った食事を好む人に、健康のためとはいえ野菜中心の食事を勧めても長続きしないでしょう。それを代替肉が解決します。
広く知られるようになった大豆ミートだけでなく、ITによる食材の解析によって再現された、植物由来の肉や卵を使ったハンバーガーなども登場しています。フードテックの技術によって、植物性のヘルシーな食事でありながら動物肉と同じ満足感を得られるため、健康のための食事制限も苦になりません。
食のパーソナライズ化
食は人が生きる上での楽しみでもある以上、健康を中心に考えた食事だけを摂り続けるのは苦痛となります。そこで、各人の栄養状態や遺伝子情報をデータ化し、そのデータを使って、その人に必要な栄養を含みかつ好みに合うメニューの提案をするなどのパーソナライズ化が行われています。
フードテックを利用すれば、好きなものを食べながら栄養管理ができるので、慢性疾患の予防に期待されています。
人手不足の解消
飲食店では深刻な人手不足が続いています。フードテックはこの現状を打破することができます。
モバイルオーダー・決済
コロナ禍で注目を浴び、急速に普及したサービスです。スマホで注文しスマホで決済、そのまま自宅に届けてもらう、または店舗で受け取るといったことを可能にしました。
フードテックのおかげで、ユーザーだけでなく店舗の手間も省けるようになりました。
調理や配膳の自動化
ボタンを押せば、メニューを記憶させたオーブンレンジが調理を始めたり、プログラミングされたロボットが調理を行ったりというシステムの実用化がすでに開始されています。ボタンを押すだけならアルバイトやパートだけでも料理提供でき、仕事を教える手間と時間も削減可能です。
ロボットが席まで料理を運ぶ、清掃業務をロボット掃除機が行う、食器も全自動で洗う。これらでも、フードテックは飲食店の人手不足解消にも大いに力になります。
日本発、現在活躍中のフードテック企業3選
日本で実際に活躍しているフードテック企業の中から、飲食店との関わりが深いところを3つご紹介します。大手企業も参入していますが、ここではこれから伸びていくであろうベンチャー企業に注目してみました。
KitchenBASE(キッチンベース)
URL:https://kitchenbase.jp/
デリバリー専用のキッチンとオンライン注文システム、受け渡し専門のスタッフなど、低コストでレストラン開業ができるサービスを提供する会社です。
デリバリーに特化した環境の提供だけでなく、売上アップのためのアドバイスなどのサポートも充実した企業です。
Green Culture(グリーンカルチャー)
URL:https://greenculture.co.jp/
植物性の代替肉を製造する会社です。
事業者向けの植物性食品の仕入れサイト運営や飲食店向け製品の開発・製造も行っています。代替肉として知られるハンバーグなどのミンチ製品だけでなく、唐揚げやナゲット、ソーセージなど種類も豊富。世界的に増えているヴィーガン食に対応したメニューの開発なども行っています。
Showcase Gig(ショーケース・ギグ)
URL:https://www.showcase-gig.com/
モバイルオーダーのシステムを提供する企業で、まさに今、時代が追いつき大きく伸びている会社といえるでしょう。
事前にスマホで注文・決済をし、テイクアウトするというだけでなく、テーブルでの注文にも対応しているシステムです。オーダーをとるという人員コストを減らし、注文時のミスやクレームからも解放されますので、飲食店にとっての救いとなるでしょう。
フードテックというと、テクノロジーを駆使した未来の話のように感じられますが、すでに身近なところで多く実用化されています。その流れはコロナ禍でますます加速し、飲食店においてもすでに珍しいものではありません。もちろんこれからも発展し続け、フードロスや人員コストの削減などで、これからの飲食店に貢献してくれる重要な分野です。飲食店の未来はフードテックによって切り拓かれていくことでしょう。