2022年現在、食品をはじめ私たちの身の回りのものの価格が上昇しています。これは飲食店の仕入れにも影響しており、昨年から飲食店の値上げについてニュースなどでも多く報じられるようになりました。
そして、この値上げの流れはしばらく続きそうです。
そこで本記事では、飲食店にとって重大な経営判断となる値上げについて背景などを解説し、スムーズな値上げのやり方について説明します。値上げをしようかと迷っている、飲食店の責任者の方はぜひ参考にしてみてださい。
飲食店の値上げを取り巻く環境
これまで、食材の仕入れ価格が上がるなどあっても、企業努力により値上げを回避してきた飲食店。しかし、この度は値上げをせざるを得ないお店も多いようです。
一体、飲食店の周りでは何が起きているのでしょうか。また、値上げをするとどのようなことが起きるのでしょうか。
高騰を続ける費用
飲食店にとって大きな費用といえば食材費。今回値上げに動くお店が多いのは、この食材費の高騰が主な原因です。食材費高騰の原因はいくつかあり、その一つが円安です。外国から輸入される食材は、円安になるほど日本国内での価格が高くなります。2022年6月現在、約24年ぶりの円安水準となっています。さらに円安に進むことも予想されており、輸入食材の価格は今後も上がり続けるでしょう。
また、ロシアによるウクライナ侵攻や新型コロナウイルスなどの社会状況が、外国での食料生産や日本への食材輸入の障害となり、価格が上がっている面もあります。他にも、原油高による運送費の高騰、天候不順による食料生産の減少、人口増による需要増加など様々な要因が複合的に影響し、食材費が徐々に上がっています。
値上がりしているのは食材費ばかりではありません。燃料費の高騰から光熱費も高くなっています。加えて、人件費も上昇傾向です。あらゆる費用がこれまで以上に飲食店にのしかかっています。
値上げに関する懸念点
食材を含め様々な費用が高騰する中、値上げは避けられない状況ですが、なお値上げを躊躇する飲食店は多いようです。
その理由となっているのが、客離れへの恐れでしょう。値上げをすれば、少なからず客数は減ってしまうはずです。そうなれば、売上が低下する可能性もあります。
飲食店が値上げに関して恐れているのが、これら客数減からの売上減という事態でしょう。
値上げの効果
値上げをすれば売上が落ちる可能性がある、これは誰もが想像し、売上が落ちることは避けたいのが普通です。
しかし、ここで気をつけておきたいのは、売上以上に大事なのは利益だということです。ここで大まかなシミュレーションをしてみます。
売上が100万円で、原価が50%のお店があったとします。このお店の粗利益は50万円ということになります。では、このお店が商品を値上げしたとしましょう。これで原価率は45%に下がりましたが、売上は95万円になったとします。粗利益はいくらになったでしょうか。
答えは95万円の55%、52万2,500円です。先ほどの粗利益50万円より高くなっています。つまり、値上げをして売上が落ちたとしても、粗利益が増えることもあるということです。
そもそもの話をすると、値上げをしたからといって必ずしも売上が落ちるとは限りません。仮に単価を10%上げたとしても、客数の減少を9%以内に抑えれば売上は落ちないのです。もちろん、実際はこんなに単純な話ではありませんので、しっかりとシミュレーションをすることが大事です。
ただ、現在多くの飲食店が値上げをした、もしくは値上げを検討しているという話がニュースになっており、消費者にも値上げは仕方がないという空気が漂っているように思います。いずれ値上げをしなければならないのであれば、値上げが目立ちにくい今はチャンスといえるでしょう。
飲食店に有効なスムーズな値上げ方法
経営戦略上、値上げは仕方がないこととはいえ、やはり客数減、売上減は避けたいところです。そこで、ここではダメージを最小に抑えられるように、スムーズな値上げをする方法について解説してまいります。
付加価値を付けて値上げする
最も避けなければならないのは、お客様の理解を得られない値上げ。つまり、ただ値上げをしたと思われることです。
ここでは「実質値上げ」とも呼ばれる、価格を維持したままの値上げと、実際に価格を上げる値上げに分けて解説していきます。
原価を下げて価格維持する
「実質値上げ」とも「ステルス値上げ」とも呼ばれるのが、この値上げ形態です。価格は据え置きながら、ポーション・品数を少なくする、食材を安いものに変更するなどで原価を下げて、実質的に値上げをしたのと同じ効果を得るものです。
この時に気を付けたいのは、単純に量や数を少なくした、食材を安くしたと、お客様に思われてはいけない点です。このように思われると、同じ価格でも価値を落としたことになり、お客様は損をした気持ちになります。
味を変える、盛り付けを良くするなどの対策をして、価値が落ちたと感じさせないようにしましょう。
原価を上げて価格も上げる
こちらは実際に値上げをするので、お客様からは気づかれやすいものです。ですから、ひと目で前よりも質が高くなっていることが伝わるようにしましょう。
例えば、器を高級感あるものに変えたり、使う食材の数を増やしたりして、単純に価格だけを上げたと思われないように気を付けてください。そして、価格は上がったけどもそれ以上に価値が上がっていることを、メニュー上の表記や口頭で伝えるようにしていきましょう。
ただし、付加価値を高めることで手間がかかってしまい、値上げにより増えた粗利益を人件費が相殺してしまわないよう、オペレーションはしっかり確認しておきましょう。
値上げを目立たせないようにする
いくら付加価値を高くしたとしても、やはり値上げというのはお客様にはネガティブに感じられるものです。ですから、値上げはできるだけ目立たないようにするほうがよいでしょう。
商品のすべてを値上げすると目立ってしまうので、一部の商品だけ値上げするというのは一つの手です。例としては、価格でお客様に選ばれているような低価格商品は値上げをしないで、高価格商品だけを値上げするとか、売れ筋商品の上位のみを値上げするとかがあります。
また、値上げと同時にメニュー変更をするという手もあります。こうすると新商品は比較対象がないので、値上げをしたとは思われません。さらに、新商品への期待感があるので、足が遠のきにくくなることも期待できます。
事前に値上げを告知する
値上げは、どうしてもお客さんからネガティブに捉えられやすいので、細かな点にも気を付けたほうがよいでしょう。例えば、いつも行っているお店が予告もなく値上げしていたら、お客様はどう思うでしょうか。お店に対して、不誠実なイメージを持ち、マイナスの感情を抱くことは想像に難くありません。それが客数減の原因となることも考えられますので、値上げは事前に告知するのがよいでしょう。
店内や店頭への掲示、SNSでの告知など可能な限りの方法で、お知らせしてください。ただし、この時は値上げするとだけ告知するのではなく、付加価値を高めたリニューアルをするというプラスのイメージを押し出すのがおすすめです。
今回は、多くの飲食店にとって避けられなくなっている値上げについてお伝えしてきました。
値上げが避けられなくなっている背景について、また値上げする際の懸念点について、さらにそれでも値上げをした方が良い理由についても述べました。ただし、仕方がないとはいえ、値上げを歓迎するお客様というのはまずいないはずです。口頭や店内街への掲示、SNSでの配信などで、値上げ以上の魅力を伝えて、お客さまがお店への関心を失わないようにフォローすることを心がけましょう。
また、値上げをしながらも、廃棄などのロスを最小限にする工夫なども行って、より多くの利益を残す努力もしていきましょう。
【参考】
https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/pdf/zenkoku.pdf
2020年基準消費者物価指数、全国2022年(令和4年)4月分